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手づくりに宿るあたたかみ
現状に甘えず
さらなる進化を

手づくりに宿るあたたかみ
現状に甘えず
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前田豊作堂 4代目社長

前田二郎

和歌山県橋本市出身。大学卒業後、東京の電機メーカーに就職するも、結婚を機に婿養子となり、前田豊作堂で働き始める。高野町杖ケ藪地域で、時代に逆行するようなものづくりが行われていることに感銘を受けて以来、仕事を通して伝統や信仰の世界の奥深さに触れ続けている。2005年、四代目社長に就任。

昭和15(1940年)頃より高野山への位牌の一括納品を開始して以来、高野山の位牌需要の大半をまかなっている前田豊作堂(和歌山県橋本市)。初代・前田芳乃助が職人として位牌をつくっていた頃も含めれば、100年以上の歴史を誇る。設備を増強し、製品の品質向上と増産を図りながら、伝統的な高野位牌をつくり続ける同社の代表・前田二郎さんに話を聞いた。

高野山のみならず他府県にも展開

時代の変化に伴い、仏壇や仏具に求められるデザインが変わってきた中で、高野位牌も例外ではありません。モダン位牌と呼ばれる現代的な位牌のニーズも高まっていますが、私たちは伝統的な位牌一本で製造を続けています。今はありがたいことに需要に製造が追いついていない状況で、どのように生産能力を高めていくかを日々考えているところです。先祖に倣う形で伝統的な位牌を望まれる方は、まだまだ数多くいらっしゃることを実感します

時折、先祖よりグレードの高い位牌を求められるお客様もいらっしゃいますが、当社では木地師も抱えているので、伝統位牌であれば基本的にどんなものでもつくることができます。

近年は地元の高野山のみならず、真言宗のお寺が多い岡山県を中心に他府県からの引き合いも増え、比率は地元:他府県=5:5くらいになっています。

当社の製造部門で中枢を担ってくれているのが、社歴約30年の工場長。高校を卒業してすぐ入社した頃はまだ幼い部分もありましたが、工場長を任せてからは、責任感が芽生えたようで仕事への姿勢が大きく変わりました。

もともと手先が非常に器用で、向上心、探究心に溢れている彼は、木地から塗り、彫りに至るまで、すべて考えながら作業をしていることは見ていてもわかります。おまけに責任感も強く、納期が迫っているときなどは自主的に工場に来て仕事をしてくれるのです。こちらがブレーキをかけるほど仕事熱心な彼に支えられているところは大きいですね。

意識を変えた「厳しい評価」

実を言うと、かつては自社製品の品質を誇れない時期もありました。高野山のお寺や小売店が主なお客様だったのですが、他社は参入できない独占的な関係につい甘んじていたところがあったのです。しかし他府県から再三問い合わせを受ける中で、私たちとしてもお客様を増やしたいという思惑もあり、品質向上に真剣に向き合うようになりました。

大きな転機となったのは、2016年に行った設備の増強です。それまですべて手づくりであることを売りにしてきたのですが、機械化を進めている他社の製品に見劣りするところは否めなかったからです。

設備を導入した翌年、業界関係者が訪れる展示会に参加したことも、非常に大きな学びとなりました。設備のおかげで品質は改善できたと思っていましたが、厳しい評価をいただいたのです。よいものをつくるにはよい設備さえあればいいわけではないと思い知らされました。

結果的にはそこで洗礼を浴びたことが良かったのだと思います。腕を磨いていかなければ、モノを見る目も養わなければという意識のもと、他社製品などを参考に、高いレベルを目標に日々せっせと技術を磨いてきたことが、実りつつあります。

高野位牌の伝統的な側面と新しい技術がうまい具合に融合しているからか、お客様の喜びの声とともに注文が増えている今、工場長も「入社以来、一番やりがいを感じている」と話しています。

時代に逆行する「価値ある仕事」

宗教やモノづくりとは無縁の一般家庭で育った私にとって、20代半ば頃、結婚を機に婿養子として当社で働き始めた当初はカルチャーショックの連続でした。

時は1970年代後半。工場で大量生産を行う電機メーカーで働いていたこともあり、小さな部屋で職人たちが彫刻から漆塗り、研磨、金箔による仕上げまで、すべての工程を手づくりで行う様は別世界だったのです。

当時、製造現場があった高野町杖ケ藪地域は、近くで生まれ育った私でも知らない場所でした。かつては林業が盛んだったと聞きますが、今では人口わずか10名程度の限界集落です。当時からすでに数十人規模の人たちしか暮らしていない、山奥の秘境のような場所だったのです。

杖ケ藪地域は「弘法大師がこの地に立ち寄り、杖で地面を突くと清水が湧いた。その杖を道端に差し込むとたちまち竹やぶになった」という言い伝えが残る、パワースポットのような場所でもあります。

そういう土地柄もあってか周囲には宮大工や木工職人も多く、時に彼らからも技術を教わりながら、伝統技術を受け継いできました。当社の職人たちは、亡き人に思いを馳せながら手を合わせる意義深いものを作ることにやりがいや責任を感じています。20代半ばの若手も働いていますが、彼らに技術を伝承しながら、新しい位牌づくりにも取り組んでいきたいと思っています。

おぶつだんの佐倉

前田豊作堂さんの位牌を当店で取り扱うようになったのは最近です。実を言うと、一度目にしたことがあるのですが、手作り感に溢れていてあたたかみを感じるものの、どこか美しさには欠ける印象があり、そこからしばらくの間は触れる機会がなかったのです。

それから約10年、久しぶりに前田さんの位牌を見たときに衝撃が走りました。まさに一目惚れしたような気持ちで、すぐに電話をかけて工場を訪問し、改めて取引させていただくことになったのです。

前田豊作堂
前田豊作堂

前田豊作堂

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