ホーム 読みもの 革新の精神を受け継ぐものづくり「神戸珠数店」職人インタビュー

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数珠を心のお守りに
託された想いを
丁寧に編む

数珠を心のお守りに
託された想いを
丁寧に編む

株式会社 神戸珠数店
6代目代表取締役

神戸 伸彰

趣味は、十代の頃から続けているバンド活動です。上場企業に勤める会社員や自営業者、銀行員など、普段出会うことのないメンバーとの交流が刺激になっています。銀行員の人には時々、経営相談にも乗ってもらっていますね(笑)。

数珠を心のお守りに託された想いを丁寧に編む

古くから数珠づくりが盛んな京都市下京区で念珠の製造卸を手がける「株式会社 神戸珠数店」。創業は大正七(1918)年。「ひとりでも多くの方に数珠を届けたい」との思いで、希少材を使った逸品や京念珠の定番品など、幅広いラインナップを取り揃えている他、墓じまいする墓石でつくった「縁添珠」や天然の山桜に藍染めを施した「藍珠」等のオリジナル数珠を開発。数珠のパーツを活用したマスクチャームのようなアイデア商品も生み出している。

その革新を主導してきたのが、2018年、社長に就任した六代目の神戸伸彰さんだ。後継ぎという運命に逆らわなかった神戸さんは、大学卒業後すぐに神戸珠数店に入社。次の100年の歴史を紡ぐべく、先祖より受け継いできた「革新の精神」で時代の変化に適応しながらも、いつの時代も変わらぬ数珠の魅力を伝え続けている。

逆風に負けず、前進を続ける

100年以上前に初代がどういう思いで神戸珠数店を立ち上げ、二代目、三代目へと会社を受け継いできたのか、詳しいことはわかっていません。愛知県で生まれ育った初代は京都に来て同業の数珠店で修行を積んだ後、のれん分けのような形で今の事業を始めたと聞いている程度です。

それでも、私は幼い頃から何かを感じ取っていたのだと思います。小学生の頃、私の遊び場は当社で働く職人さんたちの仕事場でした。学校から帰ってくるといつも会社に寄り、落ちている玉に糸を通したりしていました。この会社はいつか自分が継ぐものだ、という気持ちは自然と固まっていったのです。

その気持ちがさらに強まったのは、私が18歳のとき。独立して母と二人で数珠屋を営んでいた父親が急死したことがきっかけです。母の仕事を手伝っている最中、職人さんや仕入先の方と会うたびに「ぼん(坊)、いつやんねん」と言われていたことも決断を後押ししていたと思います。

周囲から期待されていましたが、後継ぎであることをプレッシャーに感じたり、葛藤を抱いたりしたことはありません。学生の身には、歴史ある会社を背負っていくことがどれだけ大変かがわかっていなかったのでしょう。当時は、なくなる商売じゃないから大丈夫だろうと将来を楽観視しているところもありました。実際、私が入社した2000年代前半からしばらくの間は、売れ行きがよかったですから。

その後、徐々に危機感を抱くようになったのは2010年代に入ってからでしょうか。人口減少にともなう需要の減退や価値観の変化、職人の高齢化による後継者不足など、業界の先行きに暗雲が立ち込める中で、選んでいただける会社になるために色々と策を練り始めたのです。

その取り組みのひとつが、1年に1つのペースで進めているオリジナル商品の開発です。企画室も立ち上げ、自分たちでホームページを更新したり、インスタグラムなどで発信したりするようになりました。さらにはコロナ禍で数珠の需要が激減したことをきっかけに、以前から構想を温めていた小売業者向けのオンラインサイトを立ち上げて販路を拡大。依然として厳しい状況は続いていますが、まだ掘り起こせていない需要はあると信じて、新たなチャンスを探し続けています。

使い手の心に寄り添うものづくりを

品質の高い数珠をつくるために、当社では(一部の例外を除いて)職人一人ひとりが数珠づくりの工程を一から十まで担っています。先代から引き継いだ方針ですが、工程ごとに分業するのではなく、自分で最後まで仕上げることでより気持ちがこもりますし、責任感ややりがいも増すからです。

修理専門の部署を設置していることも、私たちの強みのひとつ。穴の大きさや全体の形状が統一されている新しい数珠に対して、修理品の場合、房が変色、劣化したものから、原形をとどめていないものまで、どんなものが来るかは予測できません。時には当社でつくっていないものもお引き受けするので、新品以上に難易度が高く、経験や技術を要するのです。

当社で修理を請け負っているメンバーの中には、10数年の職人歴があり「未来の名匠」に認定された者もいます。持ち主の方が普段どんなふうに使っていたか、その癖にまで思いを馳せながら修理を施していくところに職人の技が試されるのです。

そもそも私たちは、長年使っていただくことを前提としているので、仮に修理が発生した際もその工程をスムーズに行えるように数珠を設計、製造しています。実際、おじいちゃん、おばあちゃんが使っていた数珠を形見として残しておきたい、修理して自分も使い続けたい、といったニーズは少なくありません。そういった想いはお金に変えられるものではないのでしょう。「新品の倍の値段がかかってもいいから修理をしてほしい」といったお客様の声を聞くたび、身の引き締まる思いがするのです。

私自身、仕事上の理由もありますが、手首にはいつもブレスレット代わりの数珠をつけています。父が亡くなってから数珠をつけるようになったのですが、父の形見でもあるシルバーの数珠だけは、お風呂に入るときも外しません。腕に何もない状態だとすごく不安になるのです。

私が腕につけている数珠は本式のものではありませんが、数珠が「心のお守り」であり「仏壇やお墓の前で手を合わせて思いを伝える手段」だと考えれば、形にはこだわらなくていいのではないでしょうか。

おかげさまで当社も今年で創業105年目を迎えています。六代目のバトンを受け取った身としては、200年という歴史に向けて、次の走者にバトンを手渡す責任があります。ひとりでも多くの方に数珠を届けつつ、息の長い会社であり続けるためにも、働いている人たちが皆、安心して働き続けられる環境を整備していきたいと思っています。

おぶつだんの佐倉

神戸珠数店さんとのお取引は先代から続いており、同業者の人からはよく「ええとこと取引してるね」と言われます。しっかりと編んだ太めの糸を使うだけでなく、糸を通す穴の開け方を工夫して摩擦を減らしたりと、仕立ての細やかさや耐久性が違うからだと思います。またオーダーメイドやカスタムメイド、数珠の状態に合わせた修理にも快く対応してくださるのがありがたいところです。
奇しくも、神戸社長とは同い年。ウィスキーを育てた樽材を玉の材料に使ったり、藍染を取り入れたりと、伝統を活かしながらも新しいものを生み出していく姿勢にはいつも触発されています。

株式会社 神戸珠数店<br>
株式会社 神戸珠数店<br>

株式会社 神戸珠数店

※卸専門の為、小売りは行っておりません。

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075-371-3930

〒600-8153 京都府京都市下京区廿人講町25