縮小の一途をたどる仏壇、仏具業界で、その逆風をものともせずに進化を続ける一番星がある。それが1900年(明治33年)に福島・会津若松で創業したアルテマイスター(株式会社 保志)だ。丸太の買付から販売まで自社で一貫して行える体制を強みに、伝統的な仏壇や仏具、位牌から、自由な形で使える厨子やオリジナルの木製品、大手自動車メーカーのカスタマイズパーツといった工業製品まで、長年培ってきた技術を活かし、さまざまな事業を展開している。
20〜30年後を見据えてその改革を先導してきたのが、6代目の保志康徳社長だ。1993年、28歳のときに入社して以来、積極的な人材採用による技術の継承、直営店の立ち上げ・運営、新ブランドの立ち上げなどを手がけ、従業員300人規模にまで事業を成長させてきた。顧客の心に寄り添いながら、型にとらわれない“祈りのかたち”を提案し続ける同社には、「豊かな心を創る」という変わらぬ信条がある。事業への想いについて、保志社長に話を聞いた。
心があるなら、形はもっと自由でいい
仏壇や仏具は何のために存在しているのか? 家族を亡くしたとして、それらは本当に必要なのか? 故人を祀って何の意味があるのか? そういった根本的なところを問い直したとき、「故人を偲ぶ心さえあれば、仏壇や仏具はいらないんじゃないか」という考えが芽生えても不思議ではありません。かくいう私自身、若い頃に自社のショールームを見渡したとき、自分の欲しい仏壇が見つからず、愕然とした覚えがあります。
今なら、思い悩んだり、行き詰まったりしたとき、身近なところに拝める場所、生きる力をもらえる場所があった方がいいと答えます。目に見える拠り所があった方が、故人とのつながりを感じやすいのではないでしょうか。大切な人を亡くしたばかりで辛い思いをされている方が、私たちとの関わりを通じて心を癒やしていただくことも、私たちの存在意義だと考えています。
実際、成約時や納品時に「何も分からなくて困っていたけど、これでおふくろのいい供養ができたよ。本当にありがとう」と、安堵や喜びの涙を流される方は少なくありません。私たちがつくっているのは、誰かの死を通して我が身を振り返り、生きることの尊さや豊かさを感じる“装置”だと思っています。
とはいえ、時代とともにニーズは変わっていくものです。「伝統は革新」だと言われるように、時代とともに人々の価値観や生活様式が変わっていくのに合わせて、私たちも進化、発展していかなければなりません。宗派ごとの格式を重んじるだけでなく、形にとらわれず、祈りの本質と向き合うことも大切です。
宗教や祈りに対してどこか一歩退いてしまう人もいると思いますが、日常生活の中で誰かを励ましたり、誰かに感謝したり、誰かの無事を願ったりすることは、すべて誰かを想う祈りに通じていると思うのです。
尊い仕事ができる幸せ
私自身、代々事業を営む家に生まれ育ったとはいえ、会社を継ぐつもりはさらさらなかったんです。小学生の頃から「仏壇屋はいいよな。人が死んで儲かるんだから」と言われたりしていたからです。
私が、2代目の祖父に“決別宣言”をしたのは中学生のとき。詰め襟の学生服を着て祖父を訪ね、こう告げたのです。「僕は絶対に継ぎません。でもこの仕事でご飯を食べさせてもらいましたし、これからも学校に行かせてもらわなければならないので、お礼だけは言っておきます」
怒鳴られるのではないかと内心ビクビクしていたのですが、祖父は笑みをたたえながら私を諭しました。「お前の言う通り、確かに人が死んで儲かる商売だ。でも大切な人を亡くした人の気持ちを考えたことはあるか? そういう人が仏壇の前で手を合わせることで救われる瞬間があるんだ。こんな尊い商売はないぞ」
祖父の話は腑に落ちたのですが、そこはまだ反発心の強い中学生です。うまく言いくるめられている気もして、「従兄弟も20人近くいるんだし、別に俺じゃなくてもいいじゃん」と反論し、自分の好きなように生きると決めました。実際、大学卒業後は大手上場企業の社員になり、仕事に趣味にと人生を謳歌していたのです。
結局、28歳で当社に入社したのは、あの日の祖父の言葉が私の胸に刺さっていたからだと思います。しばらく記憶から抜け落ちていたのですが、この会社に入るかどうか3ヶ月ほど悩んだ時、ふと蘇ってきたその言葉が最後のひと押しになったのです。
実際、この業界にいればいるほど、祖父の言葉の意味を身にしみて感じるようになりました。お客さんに喜ばれて社会にも貢献できるうえに、お金までいただける。こんな素晴らしい仕事はないと心から思っています。
損得よりも大事なこと
当社のみならず、仏壇、仏具業界全体の大きな課題があります。それは、お客様の声が蓄積されていないこと。どのようなお客様が、なぜこの商品を必要としたのか。その商品がお客様の人生にどんな価値をもたらしているのか……。メーカーや職人がそういう情報を得ておらず、商品開発に反映していないことが、業界を衰退させてきた一因でしょう。
その課題を解決すべく、私は東京・銀座と福島・会津に直営店をオープンし、お客様の生の声を収集してきました。閑古鳥が鳴いていた銀座の直営店にとって、記念すべき最初のお客様となったのは、ペットのミドリガメの位牌を求めている方でした。いろいろな販売店やメーカーを当たれど、応じてくれるところはなく、最後にたどり着いたのが私たちの店だったのです。損得勘定だけで考えれば、そのようなニッチなお客様のニーズはお断りするのが普通だと思います。しかし、目の前のお客様が困っているのならお応えするのが、人として自然です。
私たちが、位牌だけで860種類を取り揃えているのも、お客様のお困りごとに応えてきたからです。元来、位牌には地域独自の形状があり、それらを各地の職人が受け継いでいました。しかし、戦後、職人が減って技術が途絶えて以降、全国を行商していた2代目のもとに各地の販売店から相談が寄せられるようになったのです。「保志さんのところで何とか作ってもらえないか?」と。
当社で働く若手スタッフの中には、祖父母が亡くなると自分で位牌をつくる人もいます。こちらでそのように教えたわけでもありませんし、仕向けているわけでもありません。私たちのDNAとも言える“誰かを想う気持ち”が、彼らにも自然と伝わっているのだとすれば嬉しいことです。
つまるところ私たちがご提供しているのは、誰かを想う“豊かな心”を育んでいく装置なのだと思います。
おぶつだんの佐倉
:前向きでエネルギッシュな保志社長には、いつもパワーをいただいています。宗教宗派にとらわれずさまざまな使い方ができる厨子を約20年前に開発されるなど、常に時代を先読みして手を打っている保志社長から学ばさせていただくことはたくさんあります。
競争が激しくなったからといって安いものをつくる方に流れず、常に新しいものを生み出し、時に業界の垣根を超えながらブランド価値を高め続けておられる。だからこそ当店に来られたお客様も、アルテマイスターさんの商品に自然と引き寄せられているのだと思います。
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